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おすすめ書籍:横山紘一『十牛図入門―「新しい自分」への道―』

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人生とは、逃げた牛を探すことだった。

室町時代に中国から伝わり、日本人が夢中になった不思議な十枚の絵がある。逃げた牛を牧人が探し求め、飼い馴らし、やがて共に姿を消す―という過程を描いた絵は十牛図と呼ばれ、禅の入門書として知られる。ここでは、「牛」は「真の自己」を表す。すなわち十牛図とは、迷える自己が、自分の存在価値や、人生の意味を見出す道程を描いたものなのだ。禅を学ぶ人だけでなく、生きることに苦しむすべての現代人を救う、人生の教科書。

幻冬舎新書 760円

あなたは「牛=真の自己」を見つける旅の、どの段階にいる?

第一図「尋牛」(逃げた牛を探す)→自分とは何かを探究する。
第二図「見跡」(牛の足跡を見つける)
第三図「見牛」(牛を発見する)→偽りの自分が薄れ、真の自分が顕わになる。
第四図「得牛」(牛を捕まえる)
第五図「牧牛」(牛を飼い慣らす)
第六図「騎牛帰家」(牛を飼い慣らし、牛と一つになる)→真の自分に満足できるようになる。
第七図「忘牛存人」(牛を忘れて自分だけになる)
第八図「人牛倶忘」(全てが空になる)→「ゼロの自分」を知る。
第九図「返本還源」(大本に還る)
第十図「入廛垂手」(迷える童に手を差し伸べる)→他者の幸福のために生きる素晴らしさを知る。
(本書より、取意)

*本書は、禅の入門書として有名な『十牛図』を、仏教の唯識思想の専門家である著者が解き明かしたものである。

著者は、これまでも度々、十牛図の解説書を著しておられます。今でも容易に手に入るものとしては、『十牛図・自己発見への旅』(春秋社)を挙げることができます。本書は、これらの成果を踏まえて、より一般向けに易しく『十牛図』について説いたものと言えましょう。

そもそも『十牛図』は、牛飼いの子供と一頭の牛を中心とした十枚の絵に解説が附された、非常に簡潔なものです。

『十牛図』は、禅の修行と悟りの関係を表現した、取っ付きやすいものとして、古来珍重されてきました。これは、禅の修行のプロセスを十段階に分類して説いたものです。その意味では、本来は禅の修行者に向けて著されたものと言えましょう。

『十牛図』の圧巻は第八図以後です。それまで登場していた牛飼いと牛の姿は画面上から消え去り、ただの円、一本の花、そして布袋さんと牛飼いの姿(テキストによっては布袋さんだけのものもあります)だけが描かれます。そして、第十図に表された境地こそが、禅者の最高の境地とされます。

しかし『十牛図』は、本来は禅の修行者向けに著されたものとは言え、端的に言えば「自己の深まり」を追求したものですから、一般の方が読んでも啓発される点が多いと言えましょう。

特に第八図は、宗教的には「回心」を表現したものです。「回心(「えしん」。「かいしん」とも)」とは、「ある動機から精神的変化を起こし、いままでとは全くことなる精神世界に入ることを意味する」(平凡社『哲学事典』)ということです。「改心」と理解しても良いでしょう。

最近の、前世とか、守護霊、オーラといったものに興味を持つ「スピリチュアル」を好む人々に最も欠けているのが、この「回心」ということです。端的に言えば、江原啓之的世界観を好む人々のことと言えば良いでしょう。

心理学者の香山リカ女史は、『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』(幻冬舎新書、2006年)において、こういった類の人々の精神性について分析を加え、彼らは自分にだけに興味を持つ、極めて自己中心的な人々なのだと結論づけます。そしてそれ故、「スピリチュアル」は宗教とは似て非なるものと断言します。正しい宗教は、「利他主義」を標榜するからです。

本書は、こういったスピリチュアルブームを意識して著されたものと言えるでしょう。

著者は、最後に次のように述べて筆を置きます。

「日常生活の中で、例えばお年寄りが重たい荷物を持って歩いている。さあ、どうぞ、と無心に無私に手を差し伸べる、その行為が、気がついてみたら自己を深層から浄化して、自由に爽快になっていくのです。
自己を放棄して他者のために生きる生き方、すなわち菩薩として生きるところに、真の幸福があると、私は最近強く確信するようになりました。
〈ロウソクのごとくに燃えながら燃え尽きて生きよう〉と他人に言いつづけて、また自分にも言い聞かせて、怠惰な身に鞭打って勇気をふるいおこすことにしています」。

迷いから、苦しみから本当に逃れるには、それなりの苦労をしなければなりません。それなりの過程を踏まねばなりません。「スピリチュアル」のように、「ありのままの自分を受け容れる」とか、「癒される」というだけでは、本当の苦しみの解決にはならないのです。

さて、他にオススメの『十牛図』の解説書に、以下のものがあります。是非、あわせて御覧下さい。

上田閑照『十牛図を歩む―真の自己への道』(大法輪閣、2002年、2400円)
→哲学的見地から述べられたもの。わかりやすい。

山田無文『十牛図―禅の悟りにいたる十のプロセス ―』(禅文化研究所、1982年、2100円)
→禅の老師による解説。

上田閑照・柳田聖山『十牛図―自己の現象学―』 (ちくま学芸文庫・筑摩書房、1992年、1050円)
→学術的なレベルで『十牛図』を学びたい人にオススメ。

西村惠信『私の十牛図』(法蔵館、1988年、1800円)
→エッセイ集。

etc

投稿者 sougen : 2008年04月24日 10:27

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